人助けも楽じゃない(5)
人助けも楽じゃない(5)
人助けも楽じゃない(5)
おじさんの姿がみえない。
あれっどこかへ行っちゃったかな、と一瞬思ったが、
車の中からのこのこと出てきた。
「じゃやってみるから。」
とまた車を給油口が向い合せになるように置いて、ポンプを差し込んでみた。
ああ、ちゃんと入る今度こそ大丈夫だ。
と思い奥の方へめいっぱい差し込んで、ポンプの空気だまりをシュポシュポ何回もやったが、
まるで手ごたえがない。
どうも長さが足りなくて、タンクまで届かなかったようだ。
ああ、一体今までの苦労はなんだったんだと、
呆れ果てて笑うしかなかった。
さて、どうするかと一瞬考えた。
人助けも楽じゃない(5)
もうGSまで車を押していくしかないと覚悟を決めて、
おじさんに、
「じゃあ、もうしょうがないから、2人で車を押してGSまで行こう。」
と言ったら、
「じゃあ、私が押すから車を運転してください。」
とできそうもないことを言う。
どう見ても、私のほうが体格が上だし、若そうだし、ハンサムだし、力ありそうだから、
そんなことできるわけがない。
結局私が、ドア越しにハンドルを操作しながら車を押し、おじさんも後ろから押すことにした。
実は、3週間ほど前に肉離れを起こして、足が痛くて歩くのもしんどい状態だったが、
そんなことを言うわけにもいかず、痛いのを我慢しながら、GSまで押し続けた。
幸い途中ですれ違う車は一台もなかった。
やっとの思いでGSに着き、ガソリンを1000円だけ入れた。
エンジンをかけたら、無事にかかり、ほんとにホットした。
今度こそやっと解放されると思ったら、それだけでうれしさがこみ上げてきた。
「車まで送って行きますから、」
当たり前だ思いながら、黙って車に乗った。
おじさんは、
「見ず知らずに人にここまでやってもらって本当にすみません。是非お礼をさせてください。」
と盛んに言ったが、財布の中は1000円札一枚。
車から降りて、別れ際に
「必ずお礼をしますから。」
とまた言った。
お金持ち層でもないおじさんから、お礼をしてもらおうとも思わなかったので、
ちょっとカッコつけて、
「じゃあさ、今度困った人がいたらその人を助けてやって、それでいいから。」
といったら、
「じゃそうします。」
と言って頭をさげた。
車に乗って時計をみたら、夜中の1時少し前、ああーもうこんな時間と思いながら、
これで、人に話すネタがまたできたことを喜びながら家に帰った。
ああ、ほんとに人助けも楽じゃない。